人気ブログランキング |

『アジシオ』は使うけど、『味の素』は要らないな……と思った話

 これは、私が、自分の舌に合う『味の素』量を求めて試行錯誤した話です。

『味の素』は毒じゃない。

 一番最初に、お断りしておくけれど。『味の素』は、毒ではない。

 成分*は、グルタミン酸・イノシン酸・グアニル酸。
 グルタミン酸はアミノ酸。昆布の旨味成分と同じ、トマトなどにも含まれる。サトウキビから発酵法で作られる。
 イノシン酸はカツオ節・煮干などに含まれ、グアニル酸は椎茸に含まれる、核酸。ともに、タピオカ・とうもろこしのでんぷんから発酵法で作られる。
 3成分とも、今は、原料は石油ではない。
「『味の素』は身体に毒だから食べない」と主張する方もいらっしゃるようだが、もし本当に本気なら、昆布もトマトもかつお節も煮干しも椎茸も、お食べになるのをやめるべきだ。同じものが入っているのだから。

 私は、『味の素』の味が好きな人に、「『味の素』使うな!」というのは、辛い物が好きな人にタバスコを禁止するくらいに、余計なお世話だと思っている。
 一方で、味が嫌いで使わない人に「食わず嫌い」と決めつけるのも偏見だと思う。

 ここに記すのは、「私が、自分の舌に合う『味の素』量を求めて試行錯誤した話」。
 お読みいただいて、「じぶんもやってみようか」と思ってくださる方が一人でもいらっしゃれば、望外の喜びである。




*(注)表示は、グルタミン酸Na・イノシン酸Na・グアニル酸Na。
水に溶かすと、グルタミン酸+Na、イノシン酸+Na、グアニル酸+Naになる。
グルタミン酸Naが97.5%

きっかけはリュウジ氏

 きっかけは、料理研究家・リュウジ氏のレシピだった。いくつかのレシピを見て、
「簡単で美味しいのは素敵だけど、“私には”『味の素』が多すぎないかな?」
 頭の中で、疑問符がついた。

 “私には”、とつけたのは、『味の素』を「美味しく感じる量」には個人差があることを、知っていたからだ。
 私の(今は亡き)母方の祖母は、料理に『味の素』を「ふりかける」人だった。一方、父は、『味の素』の味が「ダメ」な人。他の家族は、その濃淡グラデーションのどこか。私の味覚は父寄りだ。
 私も父も、昆布ダシは美味しく感じるので、量の問題であることは分かっていた。ただ、その量を、計算したり確認したことはなかった。
 
 『味の素』を激賞し、多用もするリュウジ氏のレシピを見て、『味の素』の量を調整すれば自分好みになるのか?を含めて、手を動かしてみる気になった。

 その結果を公開することにしたのは、自分の出した結果が、私にとって興味深いものだったから。他にも興味をもってくださる方がいらっしゃるかもしれない、と思ったのだ。

『アジシオ』は使うけど、『味の素』は要らないな……と思った話_a0024690_11575220.jpg

『味の素』1ふりって?

 本テストに取り掛かる前に。リュウジ氏のレシピに、『味の素』〇ふり、という表現があり。「勢いで多く入った? それとも、少なかった?」と後から頭を首をひねるのはイヤなので、1振りの平均をとるところから始めた。
 精度0.01gの『ポケット精密スケール』を使い、10回計測した。平均値±標準偏差は、0.078g±0.028g。小鉢1つ(70-80g)に、一振りしたら、0.1%くらい、ということになる。

私の、"旨味適値"と"不味閾値"

 この記事のなかでは、「美味しいと感じることができる『味の素』の濃度」のを"旨味適値"、「ここを超えると、不快」な濃度を"不味閾値"と呼ぶことにする。
 手始めに、私の、"旨味適値"と"不味閾値"を調べてみることにした。
 水ではなく、塩分1%の食塩水に『味の素』を溶かし、『味の素』なしの食塩水と飲み比べた。
 塩分1%としたのは、生理食塩水の濃度0.9w/v%に近く、計算がしやすい濃度だったから。(というと、いかにも手抜きだが、家庭の味噌汁を測定して0.99%だったという論文もあるから、そう突拍子のない数字でもない)

 実は、1度、サンプルのコップを、自分でわからない程度に順序をかえて飲んでみたのだが。1%の口残りがひどすぎて、他のサンプルの味がわからなくなった。日をあらためて、薄いほうから飲んだ。

・食塩1%+『味の素』0.001%:食塩水と、区別つかない
・食塩1%+『味の素』0.01%:食塩水と、区別ついているか自信がない。
・食塩1%+『味の素』0.1%:明らかに「濃すぎ」と感じる。
・食塩1%+『味の素』1%:口のなかがもわっとして、後をひく。安い駄菓子を連想するイヤな甘味がある。不快味。

 つまり、私の"旨味適値"は「0.01%と%0.1の間」、"不味閾値"も「0.01%と0.1%の間」である。

 さらに日を改めて再試験した。今度は、食塩1%+『味の素』0.02%~0.10%とした。
・食塩1%+『味の素』0.02%:食塩水と、区別ついているか自信がない。
・食塩1%+『味の素』0.04%:ダシっぽい。単調だけどいやじゃない味。
・食塩1%+『味の素』0.06%:1口なら飲める。2口3口と続けると、後味が残りはじめる。
・食塩1%+『味の素』0.08%:はっきり口残り。
・食塩1%+『味の素』0.10%:明らかに「濃すぎ」と感じる。

 私の場合、"旨味適値"は0.04%近辺、"不味閾値"は0.06%くらい。
『アジシオ』は使うけど、『味の素』は要らないな……と思った話_a0024690_11580584.jpg

 ちなみに。伝統的な手法でとった「昆布だし」の測定例として、グルタミン酸22.8mg/100gというデータがある。(p11,表2)
 グルタミン酸(Glu)は147.13 g/mol、ナトリウムは23g/molだから、グルタミン酸ナトリウムに換算すると、26.3mg/100g(0.0263%)。
 0.0263%という数字は、『味の素』単独ではあまり旨味が感じられなかった0.02%という数字に近い。おそらく、他の成分との「相乗作用」で、美味しくなっているのだと思う。
うま味倍増!イノシン酸・グルタミン酸・グアニル酸の相乗効果と食材
和食派ならば、イノシン酸の「鰹節」とグルタミン酸の「昆布」を合わせることで、朝の味噌汁のおいしさが何倍にもなります。
洋食派ならば、イノシン酸の「鶏肉・牛肉」、グルタミン酸の「人参・玉ねぎ」をスープに入れるとおいしさが広がります。

和食の旨み


リュウジ氏の「ディスコキュウリ」

 ここまで予備試験したところで、やっとリュウジ氏のレシピの試作である。

 簡単で、低コストでできるもの、ということで、選んだのが、「ディスコキュウリ」
きゅうり一本を薄い輪切りにし、塩小1/4、『味の素』4振りしゴマ油小2と和える
 キュウリ1本は100gとして。1振り0.078g→4振り0.31%。私の水での「最適値」の8倍の濃さだ。キュウリやゴマ油との成分との「相乗作用」で美味しくなるのだろうか? グルタミン酸と、イノシン酸やグアニル酸であれば、味が濃くなる「プラスの相乗効果」だが。キュウリには、"不味閾値"を上げる「マイナスの相乗効果」があるのだろうか?
 そんなことを考えながら、試作した。
『アジシオ』は使うけど、『味の素』は要らないな……と思った話_a0024690_11575416.jpg
 実食、結果。
・『味の素』なし:十分美味しい。
・『味の素』0.04%:「なし」と区別がつかない。
・『味の素』0.08%:そろそろ"不味閾値"?
・『味の素』0.3%:どうみても"不味閾値"越え。(捨てたりはせずに、レモン汁を加えて完食した)
 結論として、「マイナスの相乗効果はほぼない」。『味の素』無しが十分美味しく、「美味しくなる」濃度は、ない。

 「悪魔の万能ねぎ」でも同様のことをしてみたのだが、結果は同じ。マイナスの相乗効果はほぼない、『味の素』無しが十分美味しく、「美味しくなる」濃度はない。
(小葱1袋100g、『味の素』小さじ1を5gとすると、100gに小さじ1/4=1.25gなので、約1.25%)

 ガッカリしたのは、ここまでいろいろ考えて、テストしてきたのに、「美味しくなる」濃度がなかったことだ。
 実は、(ガッカリの余り)ここでしばらく、試行錯誤を放り出していた。

 おそらく、キュウリ・ネギにある程度のグルタミン酸が含まれているのではないか、そのせいで追加の効果が出ないのではないか、という予想は立てたが、ブログ記事1本のために分析業者に依頼する気力はなかったし、愛用の食品成分データベースにはタンパク質としてのアミノ酸含量は載っていても、遊離アミノ酸の量はない。
「遊離アミノ酸のデータベースなんて、他の人は需要ないだろうし、ないよなぁ」
 久しぶりに思い出して、Google先生に愚痴をいう感じで検索窓に入れたら。なんと……ある!。ありがたい!
 「キュウリ」「キウリ」で検索すると、グルタミン酸量は7.1~50.6mg/100g、つまり0.007%~0.05%。長ネギ・あさつきは、43.1~48.5mg/100g、つまり約0.04%。私の旨味適値(0.04%)だと、「『味の素』なしが十分美味しい」ということがあるのも、納得できる。

グルタミン酸なら肉か!

 グルタミン酸のあるキュウリに『味の素』は、(私には)良い効果が出ない。のであれば、相乗作用の解説が言うとおり、「鶏肉」にかければいいのではないか、と思いついた。
 我が家の最頻度食材である、「鶏肉の低温調理」に、グルタミン酸を入れてみることにした。加えたい量は、0.04%。『味の素』では少なすぎて量りにくいため、『アジシオ』を使うことにした。
「『アジシオ』」のグルタミン酸ナトリウムの配合率は、販売当初は10%だったが、その後は14.7%に引き上げている。

wikipedia 2020年1月25日 (土) 09:39 記事

 鶏ササミに、片方は食塩:(肉の)1%、もう片方は『アジシオ』:0.27%・食塩:0.76%をまぶして、低温調理*する。(*リンク先はチャーシューですけど)

 そうしたら……、たしかに『アジシオ』を使った方が、美味しい。旨味に膨らみがあって、まろやか。肉だけ、もしくは「パンに乗せただけ」くらいのシンプルな食べ方であれば、違いがわかる。
 ただ、野菜と合わせてしまうと、(おそらく野菜に含まれるグルタミン酸にまぎれて)あまり区別がつかない。
『アジシオ』は使うけど、『味の素』は要らないな……と思った話_a0024690_11575964.png

リュウジ氏と私の"旨味適値"

 先に、今回の結果が、私にとって興味深いものだったと書いた。
 何が興味深いかというと、リュウジ氏という一人の人と、「私」という一人の人間の、"旨味適値"がかなり大きく違うことがわかったことだ。
『味の素、顆粒だしetc.を堂々と使うべき理由/料理研究家リュウジさん』という記事を読むと、リュウジ氏は「昔は全くの“無添加派”だった」という。つまり、リュウジ氏ご自身にとっては、昆布ダシ(約0.03%)も美味しいし、「ディスコキュウリ(約0.3%)」も「悪魔の万能ねぎ(約1.2%)」も美味しい。"不味閾値"もあるが、"旨味適値"が広い。
天然のものもインスタントのものも美味しいと感じる舌をもてて、幸せです

Twitter

 とご本人もおっしゃっているとおり、恵まれた舌をお持ちなのだ。
 私の"旨味適値"は狭い。たぶん、約0.03%~0.05%。
 "旨味適値"の上限である"不味閾値"の差は、30倍以上。私が世界で一番"不味閾値"が低いわけではないだろうし、リュウジ氏が一番高いわけでもないだろう。世の中としては、その差はもっと大きいだろう。

 この記事にいくつかの論文や他サイト記事を引用したけれど。実は、"旨味適値"──これは私の命名だから、あるとしたら他に用語があるはずだが──の個人差の論文がないか、探し回った際に(副産物として)見つけたものだ。「閾値」(水もしくは他の味覚と区別できる値)の論文はある。だが、「美味しいと感じる幅」の個体差を調べた論文は、見つけることができなかった。
 客観的・統計的なデータが見つからなかったので。今、私に言えることは、リュウジ氏や、リュウジ氏のレシピを「美味しい」と評価する方もたくさんいる、そして、私や父のように同じ濃度の『味の素』が「食わず嫌い」ではなく「食ったけど嫌」な人間も存在する、ということだけだ。

 人間は、なんとなく、他人も自分と同じ“感覚”を持っているという前提で考えてしまう。私も、実際に自分でテストをしてみるまで、リュウジ氏の味覚と自分の味覚がここまで違うとは思わなかった。
 たとえば、塩だったら、「美味しい量」が30倍も違うという前提は不要だ。味噌汁で塩分1%と先に書いたが、30倍=塩分30%だったら醤油より濃い。醤油を椀になみなみと注いでごくごく飲む人は、見たことがない。
 でも辛味だったら。私は辛い物を好まない。カレーは買うことも作ることもない。だが、世の中には激辛カレーを愛する人もいる。辛味の差は、30倍を越えそうだ。けれど、辛味では、お互い、どちらが上とか下とか考えないのではないか? 一つには、たとえばカレー専門店で「辛さ」を選べたりして、「好みに差がある」ことが見えるから、かもしれない。
 「旨味」は、欧米では長らく「旨味」が独立した味覚であるとは捉えられなかったくらいで、わかりにくい。見えにくい。だから個人差も伝わりにくく、"旨味適値"が高い人は、「『味の素』をたっぷり入れると美味しいのに、どうして使わないの?」と言ったりするし、"旨味適値"が低い人は「『味の素』入れる人って、『味の素』の食べ過ぎで、感覚おかしくなっちゃったんじゃないの?」と言ったりする。

 今回、探し回って、見つからなかった論文がもう一つある。グルタミン酸の閾値や嗜好差が、生得もしくは年齢に依存するか?、食べているものの濃度で変わるか?、後者を"推測"している論文はあったが、"実験"した論文は今のところ見つけられていない。人間に、しかるべき期間、『味の素』を追加した食事を食べてもらい、閾値・"旨味適値"・"不味閾値"が変化するか? 実験は可能だと思うのだが、論文は見つけられなかった。もし、ご存じの方がいらっしゃったら、ご教示ください。

とりあえず、我が家では

 『味の素』の赤パンダ瓶は、要らないや。うちは一人暮らしだから、作る料理は一人分。一振りしたら、"不味閾値"を越えてしまう。
 旨味を追加したいときは、『アジシオ』を、自分の"旨味適値"にあわせて、使うことにしよう。

タグ: